寛永行幸四百年祭をつくる・支える

再現行列に
「礼法」の心を注ぎ、
伝える
弓馬術礼法小笠原流 若宗家
小笠原清基さんOgasawara Kiyomoto
撮影協力:下鴨神社(賀茂御祖神社)
寛永行幸四百年祭のメインイベントとして予定される、総勢約330名による壮大な再現行列。2026年12月6日、京都御苑から二条城までの行列に参加する人々は、時代装束をまとうだけでなく、所作や歩き方を学ぶ礼法・作法研修を受け、当時の空気感まで蘇らせようとしています。
研修会場となったのは寛永年間に、中宮和子(のちの東福門院)の後押しもあり、大御所・徳川秀忠が再建した社殿が今も残る下鴨神社。寛永ゆかりの地で礼法の指導を行ったのは、弓馬術礼法小笠原流 若宗家の小笠原清基さんです。礼法を現代へ伝える意義、400年の節目に行われる再現行列にかける思いとは──。

息づかいまで伝わる、
本物の行列に
寛永行幸から400年の節目の年に、再現行列の礼法を担う──。歴史的な大役が自分のもとにめぐってきたことを、小笠原清基さんは「大変光栄なこと」と語ります。鎌倉時代に源頼朝の弓馬術礼法師範を務め、江戸時代には徳川将軍家や諸大名に弓馬術礼法を伝えてきた小笠原家。その教えを受け継ぐ小笠原さんが目指すのは、江戸時代に諸大名へ伝えられていた上級武士の所作を、寛永行幸の再現行列に蘇らせることです。
「装いにとどまらず、当時の人々の思いや息づかいまで伝わるような行列にしたい」。約2年前、寛永行幸四百年祭の総合プロデューサー・濱崎加奈子さんから相談を受け、その思いを形にするため、参加者全員の立居振る舞いを磨き、再現行列のリアリティーを追求する礼法研修を担うことになりました。
美しさは、理にかなった動きから
小笠原さんが説く礼法は、「省略」「実用」「美」の3つを大切にしています。はじめから美しさを求めるのではなく、無駄を省き、理にかなった自然な動きを積み重ねた結果として、美しさが備わるという考え方です。
「人がすんなり自然に立つ姿は美しいものです。例えばミケランジェロ作の石像なども、我々は美しいと感じますよね。ただそこに歪みがあると違和感が出て、あれ、ちょっと変だなと見えてしまうわけです。動きもそうで、例えば立ち座りの時に、反動を使った動きは本来不要で、足を伸ばせば立てますし、曲げれば座れます。こうして動作をできるだけ単純化し、それを自然に実行することを重んじています」と小笠原さん。
身体のつくりに則した礼法には、生活様式が大きく様変わりした現代にも通じる普遍性があるといいます。

本番に備え、礼法を身につける
再現行列の礼法・作法研修においてもこの考え方に基づき、自然な立ち方や呼吸に合わせた歩き方、一礼の仕方などを丁寧に指導。2026年の7月~9月に開催される1回約2時間の研修には、行列参加者が十数名ずつ挑み、礼法・所作を実践的に学んでいきます。
例えば手は、指をピンと張るのではなく水をすくう時のように自然に丸め、その形を保ったまま、腰骨のあたりへ。また首が前に出がちな現代人ですが、一度天井を仰いだのち首のうしろを伸ばすような気持ちで頭を戻すとまっすぐに。そして、列になって歩く練習では、前や横の人と呼吸を合わせることで、歩調をそろえていきます。「目線はどこへ置けばいいですか」との質問に対し、小笠原さんが「4mほど先を見るとよいでしょう」と具体的なアドバイスを送る場面も。
研修後、参加者からは「説明がわかりやすく、取り組みやすかった」「呼吸に合わせて動くのが意外と難しい。もう少し練習を積んで本番に臨みたい」といった、真摯に取り組む声が聞かれました。希望者は複数回、研修に参加することも可能で、意欲にあふれ二度目の申し込みをする人も出ています。


未来に誇れる
『歴史をつくる』一日
現在、小笠原さんのもとで継続的に礼法を学んでいるのは、武家文化に関心を持つ人をはじめ、弓道や流鏑馬をたしなんでいる人などさまざま。その輪はアメリカやヨーロッパなど海外にも広がっており、小笠原さんが指導のために自ら海を渡ることも。指導の根底には、「意欲ある方々に礼法を正しく伝え、皆で伝統をつないでいきたい」という思いが流れています。
寛永行幸四百年祭の再現行列も、小笠原さんにとっては「皆で伝統をつなぐ」営み。だからこそ参加者には、「お祭りとしてただ楽しむというより、『歴史をつくる』という思いで臨んでいただけたら」と願います。「ただ歩く姿を通して、観る人にある種の『気高さ』を見せるのは、なかなか大変です」。ゆえに、各人が『自分の芯』を持ち、しっかりと姿勢を整えて歩くことが重要。そして「200年後、300年後の人が見た時に『この時代の人たちはきちんと再現していた』と思ってもらえる行列にしましょう」と力強く呼びかけます。
歴史をつくる参加者に対して、観覧者はいわば“歴史の目撃者”。「装束や道具類はもちろん、立ち姿や歩き姿にも目を向けて、寛永行幸の情景に思いを馳せていただきたい」と小笠原さん。400年前に後水尾天皇や将軍・徳川家光に付き従って行列したなかには、すっと美しい姿勢で馬にまたがった公家や大名、威風堂々と歩みを進めた武家諸大夫など、たった一日の晴れ舞台に挑んださまざまな立ち姿、歩き姿が見られたことでしょう。参加する人と観る人、それぞれが歴史や文化に思いを寄せることで、再現行列はより深い感動を生み出す場となりそうです。
再現行列が拓く
文化継承のこれから
弓馬術礼法小笠原流は全国各地で行われる祭礼の流鏑馬神事など、何百年も受け継がれてきた伝統行事を支えています。一方で、新たに始まる大規模な行事に携わる機会はそう多くないといいますが、寛永行幸四百年祭の再現行列に小笠原さんが力を注ぐ背景には、このプロジェクトが目指す文化的意義への共感がありました。
「近年、伝統文化や伝統行事が観光イベント的に多様化しており、なかには本来の意味や意義が伝わりにくいと感じるものもあります。そのようななかで、今回のように文化としての本質を大切にし、丁寧に実践する試みは意義深いと感じました。文化を正しく未来へ伝える取り組みが、全国へ広がる契機になればと思っています」。そう話す小笠原さん自身も、再現行列に加わる見通し。生きた文化を伝える決意を、自らの所作にも込め、2026年12月6日、再現行列の日を迎えます。

弓馬術礼法小笠原流とは…
鎌倉時代から武家故実、弓術、弓馬術、礼法を受け継ぐ流派。初代・小笠原長清が源頼朝の糾方(弓術・弓馬術・礼法)師範として鎌倉幕府に仕えたことにはじまり、江戸時代には徳川家の弓馬術礼法師範を代々務め、諸大名や旗本にも指導。立つ・歩く・座るといった日常動作を通して身体を鍛え、その土台を弓術や弓馬術へと生かす教えを受け継ぎ、全国各地で流鏑馬や弓術、礼法の儀式などを執り行っている。

文:岡田香絵/写真:久保田康夫[バウプラス京都(株)]/ 編集:永野香・藤本りお[アリカ]/WEB:尾花朱美